B6027.gif (1036 バイト)教育実習支援システム 広島大学附属福山中・高等学校

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国語科

. (一)実習にのぞむ心構え
「国語科の教師として生徒の前に立つ」という使命感と自覚と情熱を持つこと。
国語科教育は、ことばの教育である。ことばに習熟することによって、対象を理解する力・意思を表現する力を養い、思考力を伸ばすことを目標としている。
この目標を達成するための柱となる内容は、次のようにまとめられる。

◇話や文章を理解する能力を養う。

◇話したり文章を書いたりする能力を養う。

◇国語に関する知識を習得し、表現と理解に役立てる。

◇言語によって総合的な文化享受をし、創造的な表現活動を行う基礎能力を養う。
「能力を養う」ことに目標があるのであって、「知識を習得する」ことは、それ自体をめざすものではない。教育実習においては、この点を確認して授業に向かってほしい。

(二)実習前の準備

◇指導教官が決まったら、電話などで連絡をとって指示を仰ぐこと。

  具体的には、次のことなどについてたずねる。

 ア、授業する教材の範囲と、それを扱う時間数。
 イ、教材を扱うにあたっての注意すべきこと。

◇次にア・イに基づいて、実習校に赴く前に、次のことをやっておく。

 ウ、徹底的に教材研究をすること。
 エ、授業時間分の指導案をつくること。

オリエンテーションの翌日から実習授業が始まる。原則として、授業をおこなう日の 前日の5時までに指導案が完成していないと授業はできない。指導案は完成までに数回 の書き直しが必要になる。それだけに、実習校に赴く前に相当の準備をしておくことが 望まれる。

 


国 語 科 指 導 案

実習生   長谷川麗子(教育学部教科教育学科国語教育学専修)

指導教官 竹盛浩二

対   象 広島大学附属福山中・高等学校 5年C組

期   間  1997年6月(前期教育実習)

1教材

阿部謹也「交響曲の源にある音の世界」(明治書院『精選 現代文』所収)

2教材観

「交響曲の源にある音の世界」は、西洋で教会の鐘の音を聴き、西洋の音の世界に深く興味を持った筆者の随想録的説明文である。
まず筆者はイザローンで鐘の音を聴き、日本の鐘の音とは「同じ鐘なのに決定的に違う」と、そこに特殊性を見いだす。そして、それまでは普遍的に聴いていた交響曲に対する「小さな違和感」を解決すべく、中世の音の世界を根底から探っていくのである。説明は中世における音の概念から始まり、音の一元化を図ることで世界を神の下に一元化することを図ったキリスト教の布教活動、そしてポリフォニーの成立と、交響曲が緊密な構成を持つまでに至る。また、ポリフォニーの成立に関してはマックス=ウェーバーの論を出すことで、筆者自身の論を高め、確かなものにするなどの工夫もみられ、読む者に文章の巧みさを感じさせている。
「音・音楽」については、学習者にとっても身近な素材であり、実際に自分たちの周囲にある音の世界や、自分たちと音・音楽との関係を見つめ直すこともできる。そのうえで本文と比較することは、本文を理解するうえでも学習者にとって有益なことではないかと思われる。
また本文の結びには、他文化に触れた際に持つ違和感・異質感などから、深くその文化を探って行くことの面白さ、また大切さが述べられている。まだ物事を多角的に捉え切れないであろう学習者にとって、違和感などのある視点が与えられることは、自分たちの思想世界を深め、認識を変容させるうえで、非常に有効な契機となるのではないかと思われる。
決して短くはなく、また学習者たちが普段聞き馴れない音楽の専門用語も多く出てくる文章ではあるが、文章構成さえ理解できれば、筆者の主張も読み取りやすい文章なので、まずは全体的な構成を押さえたい。そうすることで、長い文章が筆者の体験談と具体的説明部分、また主張部分とに分けられ、筆者の論展開を把握することができるだろう。また、このように構成をおさえ、論展開を把握する力を養うことで、本教材に関わらず、学習者が次に難解な文章や長くて分かりにくい文章に出会った時にもそれに対応できる理解力を持たせることができるだろう。

3単元目標

・文章全体を構成的に捉え、筆者の論展開を把握させる。
・「違和感」という視点から、他文化を理解することの面白さ・大切さに気付かせる。
・本文にある中世の音の世界と、現在の自分たちの周りにある音の世界を比較すること により、身近にある音の世界、またその奥にある文化や思想について考えさせる。

4単元計画:全三時間

第一時  文章の要旨把握・全体的構成理解

第二時  第一〜四段落の理解音の世界を考える。

第三時  第四〜五段落の理解西洋文化と日本文化の本質について考える。

5授業計画

【第一時】

本時の指導目標

@文章の大まかな内容を、題名読み・全文通読を通して捉えさせる。

A筆者自身の体験談と、音の世界の具体的説明、そして筆者の意見・主張につながる 文章の流れや全体的な構成を捉えさせる。

本時の指導過程

時間 指導項目 指導内容・学習活動 指導上の留意点
 

 

5分

 

 

 

 

 

 

30分

 

 

 

 

40分

 

 

45分

 

 

@導入
《題名読み》

A全文通読



 

 

 

 

B要旨を
捉える

 

 

 


C筆者の主張の理解を深める

 

 

Dまとめと予告

 

(1)交響曲について知っていることを聞き、西洋文化であることを確認する。

(1)読む際の観点を板書する。

(2)全文通読

 

 

 

 

(1)筆者が「交響曲の源にある音の世界」を探ろうとしたきっかけを本文中から探す。

(2)そこにはどんな音の世界が広がっていたのか本文中から探す。

(3)最終的な筆者の意見・主張を捉える。


(1)「違和感」とは何か、確認する。

(2)「他の文化」が本文でいう「交響曲」であることを確認する。

(3)題名に戻って、筆者が「違和感から他文化である「交響曲の源にある音の世界」を探ったことを確認する。

(1)全体的な本文の内容と流れ、構成を確認してまとめとする。
(2)次回は筆者の体験談から読むことを予告する。

◎文章内容の予想を持たせ文章に入りやすくさせる。

◎通読の際は、以下の観点を持って読み進ませる。

@筆者が何を契機に「源にある世界」を探ったのか。

Aどんな音の世界が広がっていたのか。

B全文を通して筆者は結局何を言おうとしているのか。

 

▼板書

▼キーワードを板書

▼板書

 

◎クラシックに対する違和感を具体例として確認。

 

◎題名に戻ることで、全体的な文章内容理解を深める。

◎板書を活用して視覚的に理解させる。

 

 

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【第二時】

本時の指導目標

@自分たちと音楽との関係、自分にとっての音楽の意味、また自分が音楽を通して何 がしたいのかなどを考えたり、その場に広がっている音に耳を傾けたりすることに より、身近にある音の世界を考えさせる。それとともに第三段落までの理解を深め させる。

A演奏会場の様子をおかしな光景だと思う筆者の論に対して、自分はどう思うのかを 考えさせることにより、文章に対する批判的視点を持たせる。

Bキリスト教が音の一元化を図った理由、またポリフォニーの成立過程を理解させる ことにより、第四段落を押さえる。その上で、他(特に日本)の文化や宗教には、一 元化の動きが本当にあまり無かったのか、疑問を持たせることにより、文章に対す る主体的態度を身につけさせる。

本時の指導過程

時間 指導項目 指導内容・学習活動 指導上の留意点
 

5分

@第一・二段落
音楽を考える

 

 

 

(1)音楽について各自で考える。

  @自分たちと音楽

(2)範囲通読

    指名読み(P59〜P61.L13)
◎ @は観点を与える。
  ・接する機会・意味
  ・役割・音楽の授業etc

◎ 通読の際は、@で考えたことと比較しながら読むように指示しておく。
10分

 

 

 

 

 

 

  (3)筆者の西洋音楽の感じ方をまとめさせる。
 A筆者と西洋音楽

 

(4)中世ヨーロッパにおける音楽をまとめさせる。

 B中世の音楽

(5)@〜Bを通して、現在の日本の「音楽」と、中世の「音楽」の違いを探らせる。

 

◎ 普遍→特殊にいつ変化したのかなど、第一段落を振り返りながら考える。


▼板書

▼板書

◎「音に満ちた世界に調和を与えるものとしての音楽」という中世の考え方を確認して第三段落へ移行。

20分

25分

 

 

 

 

 

A第三段落
音の世界を
考える

 

 

 

 

 

(1)範囲通読
指名読み(P61.L15〜P64.L3)

(2)「みな生きて行くうえで必要な音」 「みな意味をもった音」「大宇宙・小宇宙の音」音に満ちていたことを確認

(3)その場で生徒の周りに広がっている音の世界を説明させてみる。

(4)(2)でみた筆者の論展開を理解したうえで、「演奏会場は無音でなくて良いと」いう筆者の論を考える。
 

 

▼板書

 

 

◎実際の演奏会場の様子を想像させ、自分たちはどう思うかを考えさせる。

 

35分

40分

 

 

 

B第四段落
音の一元化
を考える

 

 

 

(1)範囲通読
指名読み(P64.L4〜P66)

(2)何故キリスト教が音の一元化を図ったのかを考えさせる。

(3)キリスト教の音の一元化の中でポリフォニーが成立した過程をまとめさる。
→ヨーロッパでポリフォニーが他とは比較にならないほど組織化された理由を考える。

 

◎カール大帝がフランク王国統一の一手段に使ったことをヒントにする。

◎他(日本)では一元化の動きはなかったのか疑問をなげかける。

45分 Cまとめと予告 (1)本時の学習の範囲を振り返り確認する。

(2)次時の範囲の予告をする。

 

 

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【第三時】

本時の指導目標

@ポリフォニーの成立過程を第二段落まで戻ってまとめ、西洋文化の本質を確認させ る。

Aマックス=ウェーバーの論を筆者がどのように用いているか考えることによって、 筆者の論展開を追い、文章の巧みさを感じさせる。

B現在の日本における「一元化されない二つの宇宙」を探すことにより、身近な日本文 化を見つめ直す。また、日本の文化や宗教には、一元化の動きが本当にあまり見ら れなかったのか疑問を持たせることにより、文章に対する主体的態度を身につけさ せる。

本時の指導過程

時間 指導項目 指導内容・学習活動 指導上の留意点
  @前時の想起

 

 

(1)第三段落までの内容を振り返る。第四段落で、キリスト教による音の一元化の努力がなされたことを確認する。

(2)本時の学習範囲の確認

▽ノートで確認

 

 

2分

5分

 

 

10分

A第四段落
ポリフォニーの成立

 

 

 

 

(1)範囲通読
指名読み(P64L4〜P66L14)

(2)何故キリスト教が音の一元化を図ったか、具体的にはどの様な形で現れて来たのかを考える。

(3)ポリフォニーの成立過程を振り返り、第2段落からの筆者の論展開を確認する。

(4)ビデオ視聴(*注)
◎何故キリスト教が音の一元化を図ったのかを考えながら読ませる。

◎ヨーロッパで他とは比較にならないほどポリフォニーが組織化された理由を押さえる。

 

20分

 

23分

 

 

 

 

B第五段落
ウェーバー論
を考える

 

 

 

 

 

(1)範囲通読
指名読み(P67L1〜P68L10)

(2)ポリフォニーの成立について、筆者が挙げる原因と、マックス=
ウェーバーが挙げる原因をまとめて、その違いを比較する。

(3)「本来の合理化」「音楽を合理化する」ことの意味を確認する。

(4)何の為に筆者がマックス=ウェーバーの論を出しているのかを考えさせる。
◎「マックス=ウェーバーが取り上げなかった点」とは何か、ということに注目させて読ませる。

▼板書

◎例をヒントに考えさせる。

 

 

37分

 

40分

 

 

 

日本文化と
の比較考察

 

 

 

 

(1)範囲通読
 指名読み(P68L11〜P70L4)

(2)西洋と日本の文化の本質の違いを明らかにし、「違和感」を感じた理由を確認することで文章
全体を振り返る。

(3)日本における「一元化されない二つの宇宙」とは、何があるかを考える。

 

 

▼板書

 

◎日本文化には何があったかを考えさせ、ヒントにする。

45分

 

Cまとめ

 

(1)本単元の学習を振り返る。

 

 

*「ビデオ」は、中世のキリスト教と音楽に関するも ので、テレビ番組から収録・編集したもの。

 

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【指導教官による評価】

 丁寧な教材分析を経て、綿密に授業を構想し、教壇に立っても冷静に教室を把握し、わずか三時間ながら、長文の本格的な説明的文章をものともせず、生徒に読ませることに成功した。限られた時間の中でのことであるから粗いところも多々あるが、思い切って大胆に読んでいこうとする指導者の意気込みを、生徒たちは見逃すはずがなく、緊張感漂う学習空間が出来上がっていた。教育実習生としてはハイレベルの授業であった。特に、構造的できれいな板書は、他の実習生にとっても、いい手本になった。
 教材の分析力、授業の構築力、授業に対する意気込み、これらが一つとなって授業があるのである。

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